2月の総括というか高橋くんの話
2月は激動の一か月だった。
夫から事後報告で「辞表を出した。悪いけどもう生活費は出せない」と連絡を受けた。わたしたち飢え死にするの?という経済的なピンチに直面しながら、一方で、「ぼくはもう死ぬ。死にたい。死んだら遺産で生きたらいい」と死ぬ死ぬ宣言で騒ぐ夫を説得したり、なんかもう精神的には最悪な状態だった。
結局、夫の職場のみなさんのやさしさにより、普通の会社ではありえないけど慰留され、仕事を続けることになり、生活は大きく変わらないことになったのだけど、これまで自分が夫からの生活費に頼って甘えていたことを痛いほど自覚したので、これから経済的に自立することを目指して、働き方を大きく変えていくことに決めた。
激震。激動。激走。
人間、やればこんなに一気にできるのか、と思うくらい、ものすごい変化の一か月だった。
ぶっ倒れるかと思った。でもなんとか走り抜けて、いろんなものを変えられた。このピンチはチャンスだったのだと、きっと後から思うだろう。
そんな2月も終わりかけた昨日、たぶん人生ではじめて、高橋くんの夢を見た。
高橋くんは高校のとき半年くらい付き合ってた人で、なにかと不思議で、わたしの人生に大きな影響を与えた人の一人。
高橋くんは勉強がきらいだった。だから勉強をしなかった。たぶん、地の頭はよかったと思う。でも、とにかく勉強をしなかった。だから成績は学年最下位だった。ちなみにわたしは学年で一位だった。
定期テスト前、試験勉強をするわたしの近くで、彼はえんえんと漫画を読んでいた。試験勉強は、たぶん1秒もしなかった。鼻水が垂れるから、と、両方の鼻の穴にティッシュをつっこんで漫画を読んでいた。涙もろい人だった。
学年一位と学年最下位は、いちばん遠いと、わたしは思っていた。でも、高橋くんの見解は違った。彼は自信満々にこう言った。
「成績順に並んで輪をつくると、最下位の俺と一位のお前はとなりどうしだ!」
下手に勉強して成績があがると遠ざかることになるから、最下位がいちばん近いのだ、と。なんというめちゃくちゃな発想!でも、そんなめちゃくちゃなことを思いつくところを少し尊敬していた。
勉強に興味がなかった高橋くんは、当然大学にも興味はなく、高3の終わりに、わたしが「京大を受けることにした」と話したとき
「キョウダイって何の略?京都大学?それって京都にあるん?」
「お前くらい頭がよかったら広大(広島大学)行けるんじゃないんか?広大ってそんなに難しいんか?」
と悲しんでくれた。
いや、広大には農学部がないから・・・と濁したけど、東大の次に難しいのは広大だと信じていた彼に、それ以上の説明はできなかった。
今思えば、わたしは彼のなにが好きで、彼はわたしのなにが好きだったのか、よくわからない。いっしょにいるとき、なにをしゃべってたんだろう。価値観も方向性もなにもかも違ってたし、好きなものも大切なものもぜんぜん違った。
高橋くんのいいところは、別れてから、世界一無遠慮にわたしに説教をしてくれるようになったところだと思う。
「お前、最近やせすぎてて気持ち悪い。飯を食え!」(うるさい!)
「なんでそんなにつまらなそうな顔しとるんや、もっと毎日を楽しめや!」(ほっとけ!)
「お前、親友おらんの?」(グサッ)
「お前は友だちと思ってなくても、まわりはみんなお前のこと友だちだと思っとるんで?お前が逃げるけえ一人になるんで?」(グサグサッ)
などなど、あとは何を言われたか忘れたけど、他の誰も言わなかった事実の数々を、はっきりと、面と向かって言い放ってくれた唯一の人。
なんだかんだで、わたしのこと、いつも気にかけてくれてたんだなーと思う。
わたしが京都に出発する少し前にくれたお別れの言葉も、なんだかんだで、ありがたかった。
「お前、しあわせになれよ!お前が不幸になったら、俺がふられた意味がないけえの!約束で!!」
叱るような口調で、 しあわせになれよ!って命令された。
今でもときどき、そのときのことを思い出す。あー、わたし、たかはしくんとの約束守れてないなーって。付き合ってたときのことはほぼすべて忘れたけど、この言葉だけはきっと一生忘れない。夢に出てきたのは、きっと今のわたしに説教しにきてくれたんだな。
いろいろ変化の連続だった2月。この方向性でいいのだろうか、わたしは後悔しないだろうか、これでやっていけるだろうか。とにかく不安と迷いでいっぱいだった2月。
お前、ちゃんとしあわせに向かって生きとるか?
お前は、それでいいんか?
夢のなかの高橋くんはなにも言わなかったけど、そう問われたような気がする。
いつか再会したときに、わたしもしあわせにやっとるけえ心配いらんよ、って、胸をはって言えたらいいな。いや、さすがにもうわたしの心配なんかしていないか。
「不安はあるけど、迷いはない」
そう言い切れるところまでは至ってないけど、この決断は正解だったと、笑って言える日が来るように、がんばっていこうと思う。
わたしの人生、これからどうなるんだろう。
わたしらしさを強みに輝ける、そんな生き方を見つけていけたらいいな。