『蜜蜂と遠雷』
恩田陸の『蜜蜂と遠雷』を読んだ。3週間くらいかけて、細切れに。
すごくよかった。読み終わるのがさみしくて、途中で何度も本を閉じた。
「もう一度読みたい」と思った本はこれまでにもたくさんあった。だけど、「読み終わりたくない」と思った本は、人生でこれが初めてかもしれない。
ピアノコンクールを舞台にした話で、章は「エントリー」「第一次予選」「第二次予選」「第三次予選」「本選」と進んでいく。
おもに4人のコンテスタントの、エントリーから最終結果までの、葛藤、気づき、革新、そして確信や決意が、とても美しい言葉でつづられていく。
貸してくれた友人が「読んでいるとピアノの音が聞こえてくる」と言っていた。文字なのに?と思ってたけど、本当だった。書かれた文字を目で追っているだけのはずなのに、音も聞こえるし、風景が見えるような気がした。
わたしはピアノの知識がほとんどない。だから、楽曲名を書かれても、どんなメロディーなのかはわからない。でも、確かにピアノの音を聴いた。いろんな音色で。
先入観や予備知識がなかったからこそ、演奏のイメージが無限に広がったのかもしれない。ピアノに詳しい人だとどう感じるのか、それはそれで聞いてみたい。
コンクールの選考が進んでいけば、残る人間は減っていく。誰が優勝するのか早く知りたい、という気持ちももちろんあった。でもそれ以上に、4人のコンテスタントのそれぞれがとてもいとおしくて、選考が進むのがさみしくもあった。
選考のたびに変化し、広がっていく演奏が、本当にどれもすてきだった。聴けるものなら4人のピアノを生で聴きたい。
機会があれば、いろんな人のピアノを聴いてみたい。
音の粒が織りなす世界。弾き手によって違う世界。
わたしはいったい、どんな景色を見るんだろう。